後遺障害を等級で評価する制度
後遺障害等級認定制度とは、交通事故によって治療を続けても改善が見込めなくなった後遺症(後遺障害)について、その症状の内容や程度に応じて1級(最も重い)から14級(最も軽い)までの等級に分類するための日本の公的な制度です。この制度は、後遺障害が被害者の生活や仕事に与える長期的な影響を客観的に評価し、適切な補償を行うための基準となります。
等級が賠償額に与える影響
認定された後遺障害等級は、被害者が受け取る賠償金(特に後遺障害慰謝料や逸失利益※)の算定において非常に重要な基準となります。等級が高い(数字が小さい)ほど、後遺障害が重く、生活への影響が大きいと判断され、賠償額も高くなる傾向にあります。 ※逸失利益:後遺障害によって労働能力が低下し、将来得られるはずだった収入が得られなくなったことに対する補償。
認定には医学的な証明が不可欠
後遺障害等級の認定を受けるためには、その後遺障害が交通事故によって生じたものであること、そしてその症状の内容や程度を医学的に証明する必要があります。そのためには、資格を持つ医師による診察と、詳細な医学的根拠に基づいた書類(特に後遺障害診断書)の作成が不可欠となります。
整骨院は後遺障害認定にどう関わる?
整骨院(柔道整復師)は医師ではないため、後遺障害の診断を行ったり、後遺障害診断書を作成したりすることはできません。しかし、後遺障害等級認定のプロセスにおいて、重要なサポート役を担うことができます。
整骨院の役割:直接認定はできないが重要なサポーター
整骨院は、後遺障害等級認定の申請書類を直接作成することはできませんが、認定に必要な情報を集め、被害者をサポートする上で貴重な存在となりえます。
貢献できること:継続治療と詳細な記録
整骨院の主な貢献は、事故後の継続的な施術を通じて、患者さんの状態変化を詳細に記録することにあります。
日常的な機能状態や制限の観察・記録
定期的に通院する中で、柔道整復師は患者さんの日常生活における動作の制限(例:可動域の制限、痛みによる動作困難など)や、症状の具体的な変化を継続的に観察し、記録することができます。
治療経過の具体的な記録
どのような施術を行い、それに対して症状がどのように変化したか、あるいは改善が見られなかったかといった治療経過の詳細な記録は、後遺障害の症状が持続していることを示す客観的な資料となりえます。
医師との連携による補完的役割
整骨院は、後遺障害診断書を作成する医師(主に整形外科医など)と連携することで、その役割を最大限に発揮します。整骨院で記録された詳細な情報は、医師が診断書を作成する際の重要な参考情報となり、より実態に即した診断書の作成を助けます。頻繁な通院を通じて得られる整骨院からの情報は、診察頻度が比較的少ない医師の所見を補完する役割も果たします。
適切な認定のための治療と書類作成のポイント
後遺障害等級の適切な認定を受けるためには、事故後の治療の受け方と、申請書類(特に後遺障害診断書)の作成において、いくつかの重要なポイントがあります。
一貫性のある適切な治療の継続
後遺障害の認定を受けるためには、「症状が一貫して継続していること」を示す必要があります。そのため、自己判断で通院を中断せず、医師や柔道整復師の指示に従い、必要な治療を継続することが重要です。病院や整形外科での定期的な診察と、整骨院での継続的な施術を組み合わせることが、回復と適切な認定の両方にとって効果的な場合があります。
医師と整骨院の連携・情報共有の重要性
後遺障害診断書を作成する医師と、日々の施術を行う整骨院の柔道整復師が、患者さんの症状や治療経過について情報を共有し、連携することが非常に有益です。これにより、より正確で一貫性のある情報に基づいた診断書作成が期待でき、認定プロセスにおいて有利に働く可能性があります。
「後遺障害診断書」作成における注意点
後遺障害等級認定の申請において、最も重要な書類が医師の作成する「後遺障害診断書」です。
診断書作成は医師の役割
後遺障害診断書は、医師のみが作成できる書類です。患者さんの症状、検査結果、治療経過、そして後遺障害の内容や程度について、医学的な観点から詳細に記載されます。
整骨院の記録が診断書作成をサポート
前述の通り、整骨院での詳細な施術記録や症状経過の記録は、医師が後遺障害診断書を作成する際に、患者さんの状態をより深く理解するための重要な参考資料となります。診断書作成を依頼する際には、整骨院での記録を提供することも検討しましょう。
後遺障害等級認定の申請プロセスと注意点
後遺障害等級認定を受けるためには、定められた手順に従って申請を行う必要があります。
申請から認定までの基本的な流れ
一般的な申請プロセスは以下の通りです。
必要書類(特に後遺障害診断書)の準備
まず、医師に「後遺障害診断書」を作成してもらいます。その他、事故証明書、診断書、診療報酬明細書、施術証明書、レントゲン・MRI画像など、必要な書類を収集します。
保険会社への提出と審査機関による評価
準備した書類一式を、加害者側の自賠責保険会社(または任意保険会社経由)に提出します(これを「被害者請求」といいます。加害者側保険会社に任せる「事前認定」という方法もあります)。提出された書類は、損害保険料率算出機構などの第三者機関によって審査され、後遺障害等級が認定されます。
申請手続きにおける重要事項
申請プロセスを進める上で、いくつか注意すべき点があります。
書類の正確性、提出期限、時効の確認
提出する書類に不備や誤りがないか、十分に確認しましょう。また、後遺障害等級認定の申請(損害賠償請求の一部)にも時効があります(症状固定日の翌日から原則5年)。期限内に申請を行うことが重要です。
認定結果に対する異議申し立て
認定された等級に納得がいかない場合や、非該当と判断された場合には、「異議申し立て」を行うことができます。異議申し立てでは、新たな医学的証拠などを追加して再審査を求めることになります。
困ったときの弁護士相談
後遺障害等級認定の申請手続きは複雑であり、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。書類の準備方法が分からない、認定結果に不服がある、保険会社とのやり取りがうまくいかないといった場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談することを強くお勧めします。弁護士は、適切な等級認定を得るためのアドバイスやサポート、異議申し立ての手続き代行などを行ってくれます。